平成30年度 第1回の合研技術セミナーは「カーボンナノチューブ(CNT)」の基礎から実用化までを産・学・公と視点の異なる3名の講師を招き、講演していただきました。本セミナー実施の背景には、今年度プラスチック成形加工学会内で立ち上がった『ナノセルロース・ナノカーボン複合材料専門委員会』が大いに関係しています。
講演1:『 カーボンナノチューブおよびその複合材料の特長と今後の可能性 』
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ナノチューブ実用化研究センター 主任研究員 阿多誠介 氏
CNTの歴史から機能、応用分野まで幅広く解説していただきました。導電性をはじめ電磁波遮蔽やラジカルトラップなど多くの機能を有するナノ繊維は大変魅力的なものに映りました。一方でスケールアップがもたらすCNTの構造欠陥による理想物性との乖離、樹脂中での分散性向上など実用化をさらに進めるための課題も多くあることを実感できました。
講演2:『 カーボンナノチューブ複合材料と表面加工の融合による滑水性固体表面の開発および産業的応用への展望 』
長野工業高等専門学校 機械工学科 准教授 柳澤憲史 氏
静的に水をはじく性質(撥水)と動的に水がすべる性質(滑水)は必ずしも一致せず、別のメカニズムがあることを理解出来ました。滑水性を発現するには材料だけでなく表面の微細構造も大きく影響しており、CNTをはっ水性材料に複合したシートの表面に加工を施すことによって開発された非常に滑水性の高い表面の特徴や豪雪地帯での屋根材などへの応用について解説いただきました。
講演3:『 CNT利用によるCFRP製スポーツ品疲労特性の向上 』
ミズノ株式会社 研究開発部 素材研究開発課 課長 松井泰志 氏
CNFを複合化したCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を用いたゴルフシャフトの実用化事例について解説いただきました。CNTは数多くの研究,特許出願がなされていますが、実際に実用化された事例として大変興味深いものでした。過去にCNTを検討した時は期待した性能が得られず頓挫したとのことでしたが、CNFの分散性を向上させることで成形性を損なわず,繰返しの疲労衝撃強度の向上も得られ採用に至ったとのことです。新材料の実用化にはしつこく取り組むことが必要であることを実感しました。
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